温暖化と森林
森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減(REDD)についての解説
はじめに
インドネシア・バリで開催された国連気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)では、森林減少・劣化による温室効果ガスを如何に削減するかが大きな議論の1つとして注目されました。2000年の世界の温室効果ガスの約20%が土地利用変化により放出されていますが、その主な原因は途上国における森林ガバナンスの不全にともなう森林の過剰伐採や農地への土地利用転換です。昨年度公表されたスターンレビュー(注)でも指摘されたように、急激に進んでいる森林減少や劣化を食い止めるほうが植林による二酸化炭素の吸収を試みるより経済的・効率的であるという考え方が背景があります。
(注)スターンレビュー、付録7f「土地利用変化及び森林セクターからの排出」(FoEJapan仮訳)参照
主に途上国における急激な森林の減少・劣化を食い止めるため、 森林減少抑制による温室効果ガスの排出抑制分を新たに排出権と認め、「ポスト京都」において森林減少対策のかなめとする提案がブラジルやインドネシア、パプアニューギニア等の森林大国から出されています。ここでは市場メカニズムを導入することによりその資金源を確保しようとする構想も見られます(例えば、途上国で森林保全事業(伐採権の停止等)を実施した場合、仮に何も行わなかった場合に排出されたであろう温室効果ガスに相当する量の排出権が与えられ、その排出権を炭素市場で売買する)。また世界銀行は、そうした市場メカニズムを補完するための基金「森林炭素パートナーシップファシリティー(FCPF)」を提唱していますが、日本政府はこれに3年間で最大1000万ドル(約11億円)を拠出すると表明しています。
泥炭湿地林破壊によるCO2排出の事例はこちら
>「インドネシア 泥炭地破壊で世界第3位のCO2排出国に」
一般的な論点
ここでREDDについての議論のポイントを簡単に解説していきたいと思います。
2-1 ベースライン(リファレンスレベル/リファレンスシナリオ)の設定
ベースライン(リファレンスレベル/リファレンスシナリオ)の設定ベースラインとは、仮にREDD政策を行わないと森林減少・劣化がどの程度起こるかを予測するシナリオです。 このベースラインはREDD政策を行った場合にどの程度その政策が効果があったのかを判断し、 回避できた森林減少・劣化による温室効果ガス量を算出、コンペンセーション(補償)を 支払うための目安(ベンチマーク)として必要です。ここでベースラインをどう設定するかがとても重要になっていきます。
このベースラインの設定には、森林減少・劣化の正確な予測が課題となります。森林減少・劣化率は経済成長率や農産物、アブラヤシ、林産物の値段・需要量などの変化により、森林開発の度合いが変わってくることを考慮しなければなりません。また過去の森林減少の割合や傾向を参考にベースラインを設定すると、過去に森林減少・劣化の度合いが高かった国がより多くのREDDクレジットを獲得し、逆に森林減少・劣化の対策を行ってきた国やこれから森林減少が起こる国がクレジットを十分に獲得できなくなり、公平性を欠く可能性があります。そもそも、ベースライン設定には、こうした途上国各国の過去の森林被覆率や土壌、枝葉、枯死木、地下バイオマスの炭素ストック量など事業対象地のデータが求められますがが、信頼性� ��正確性の点で懸念が残り、その設定を難しくさせています。
2-2 リーケージ(Leakage:漏出)
またベースラインは空間軸として地域レベルのものと国レベルのものとに分けられます。地域レベルのベースラインとは個別の限られた地域にREDD対象範囲を絞った、後述の国レベルよりも小さな面積のベースラインです。対象が絞られるため比較的正確に排出量を計測できる反面、そこで森林減少・劣化が抑制されたとしてもその分他の地域で増えた伐採活動等により森林減少・劣化が増える可能性があるため、排出削減量の"リーケイジ(漏出)"が問題になります。
国レベルのベースラインとは国全体をREDDの対象範囲としたものです。対象範囲が地域レベルよりも広いため、地域レベルで起こるリーケイジの問題を完全になくすことはできませんがある程度回避することができます。しかし当然ながら地域レベルとくらべ対象範囲 が広いため、正確に広範囲を捉えるための技術が求められます。
このようにリーケージはREDD対象地から比較的近くの森林へ移る地域的なものや、県や州を越えて移るもの、更には国境を越える国際的なものまで考えられます。現在、REDDの対象範囲は、県や州などの地域レベルよりもリーケージが比較的少なくなると予想されている国レベルで行うことが検討されています。
2-3 モニタリング
Deforestation(森林減少(完全な森林面積の消失)とDegradation(森林劣化(森林面積は減少しない森林の質的劣化))により排出される炭素量を算出することは、エネルギー消費活動の排出量を算出するよりも困難です。森林生態系の多様さ、ベースラインの予測・計算結果、現存のデータの正確さにより森林保護をした場合の排出削減量が変わってくるからです。さらに森林減少・劣化は二酸化炭素のほかにメタンという温室効果ガスも排出します。
また森林の質が低下する森林劣化については"劣化"をいかに定義(2-5 森林、森林減少・劣化等の定義を参照)し、感知するかという技術的な問題があります。現在、森林減少や森林劣化を人工衛星から観察し排出量を割り出すリモートセンシング(Remote Sensing:遠隔探査)技術の開発が始まっていますが、衛星画像から割り出す排出量の正確さの向上、森林減少にくらべその判断が非常に困難な森林劣化を判断する技術開発及び地上レベルでの確認作業方法、また、森林はあるが資金源が乏しい途上国でいかに技術開発を進めるかなどの課題があります。
2-4 非永続性
森林減少や森林劣化は、自然現象や人間の活動によりいつでも起こり得ます。ということは、森林減少や森林劣化の防止を成功し、排出が削減されたと認められた温室効果ガスのが、突然の森林火災や違法伐採により排出されてしまうことが起こりえます。そのためには、どれくらにの時間枠ででREDDの防止の成果を計測するのかという非永続性の問題もを議論しなければなりません。
2-5 森林、森林減少・劣化等の定義
途上国には熱帯雨林からやパルプチップやゴム生産のための人工林まで、「森林」と定義される土地があり、その解釈が様々あることから、REDD事業においては森林減少・劣化を防止したと判断するために、まずどのような条件を満たせば「森林」とするのかを明確に決める必要があります。
カリフォルニア州は、土壌の種類を持っています
森林減少(Deforestation)とは、森林の皆伐や森林の農地や牧草地などへの土地利用転換により森林面積が完全に消失することを意味します。一方、森林劣化(Forest Degradation)とは、林業活動による択伐や林道の敷設、地中火、林地での小規模農業等により、統計上の森林面積は減らず森林の質が劣化することを指します。このように森林が完全に消失するため定義しやすい「森林減少」と違って、森林の質が低下する森林劣化についてはどのような状態をもって「森林劣化」と定義するのか、今後において、各国のコンセンサスを得る必要があります。
2-6 資金分配
REDDにより誰がその利益を得るべきかを慎重に議論する必要があります。REDD事業により、森林に依存した伝統的生活を続けてきた先住民族や地域住民の環境サービスを損なうことがないように、またREDD事業を通して利益分配で途上国の貧困問題が改善するような制度設計の重要性が様々なNGOや途上国政府から主張されています。減少・劣化にさらされる広大な森林を多く所有する途上国諸国は、ガバナンスの脆弱さ、蔓延する汚職が蔓延しやすい途上国において、REDDの適切な資金分配は非常に重要な課題です。
REDD事業実施には、計測、モニタリング、ベースライン設定、制度設計等を途上国が行うためのキャパシティービルディングや、実際にREDDが行われる際の対象森林のステークホルダーへの機会費用に見合う補償の支払いや代� ��地の手当てなどに多大な資金が必要となります。スターンレビューによれば、土地利用変化によるCO2排出の70%を占める8ヵ国にとって、森林保護にかかる機会費用だけでも年間約50億USドルと概算されています。こうした財源の捻出の方法については、締約国間で最も意見がわかれる問題です。大きく、市場ベース(REDD独自の炭素クレジットの取引、CDMに組み入れる案、生態系サービスに対する支払い等)を用いる意見と、市場ベースでない基金方式(ODAや既存・新規基金を活用した二国間・多国間援助、炭素を含む商品やサービスへの課税等)を用いる案、また、双方を組み合わせた方式(ハイブリッド・市場リンク方式)が検討されています。
これまでの議論の経緯と各国の考え方の整理
ここでは、これまでのREDDにおける議論の経緯について概説します。
2005年のCOP11においてCoalition of Rainforest Nations(熱帯雨林連合)をリードするパプアニューギニア(PNG)とコスタリカから正式に提案を発表しました。COP11が加盟国に森林減少からの排出の削減(RED)に対する見解・提案の提出を要請してから、3度のSBSTA(24、25、26)と2度のワークショップを経て議論されてきました。
2006年のCOP12(SBSTA25)では、熱帯雨林連合からODAや二国間や多国間の協定、市場メカニズムなどを資金源とする案や、ブラジルから市場メカニズムは用いず国レベルで森林減少を防止しできた分に対し国際社会から何らかの形で支払いを受ける提案、アフリカ諸国のコンゴ台地にある6カ国からの提案など、大きく分けて3つの案が提出されました。
2007年12月にインドネシア・バリで開催されたCOP13では、それまで以上にREDDが大きな議論の1つとして注目 されました。COP13で採択されたバリ行動計画では、「途上国における森林減少及び森林劣化を原因とする排出の削減に関連する問題に対する政策手法の採用とプラスのインセンティブの提供、ならびに途上国における保全の役割、森林の持続可能な管理、森林炭素貯留量の増加」について各締約国は国内および国際的行動を強化すること」が合意されました。具体的にはパイロットプロジェクト(Pilot Project:実証活動)や途上国のキャパシティビルディング(Capacity Blilding:能力開発)等に取り組むことが盛り込まれました。
3-1 REDD事業の導入は任意
REDDの実施には、柔軟性・バランス・包括的な政策アプローチが適当です。各国の国情や既存の政策、イニシャティブを考慮した上で、いかなる将来枠組みにおいてもREDDへの参加は任意とし、広い参加を促すものであるべきと考えられています。
3-2 REDD事業の範疇
REDD事業においては当面、森林減少に議論を集中すべきであるという立場をEUやブラジルはとっていましたが、COP13では森林減少と森林劣化対策を同列に取り扱うことで合意に至りましたた。しかし、森林保全の役割や、森林の持続可能な管理、植林活動を通した森林炭素貯留量の増加についてもあわせて検討するべきであるとの意見がインドや中国、中南米等の森林所有国から提出され、現在はそれら全てを含めて検討されている状態にあります。
3-3 モニタリング
森林減少は、人工衛星からの衛星画像やリモートセンシング技術を用いて測定することが可能であるというのが現在の各国の認識です。しかし、森林劣化をモニタリングする場合、枝葉、枯死木を含めた地上の炭素ストックの他、土壌・地下バイオマスの炭素ストックの変化を計測するには人工衛星からの情報だけでは不十分であるため、地上におけるデータを実地調査により収集する必要性があります。森林減少・劣化による排出を推測する際には、こうした手法を基礎として利用しようとする共通の理解はあります。
3-4 ベースライン、対象範囲、排出量算定等
ベースラインは過去の森林減少・劣化の傾向から設定すること、対象範囲は国ベースで設定するということで基本的なコンセンサスは得られています。しかし、これまで森林減少・劣化が大規模に起こっていない国との公平性、国ベースという広域の対象範囲でREDD事業を行うキャパシティーの問題など、各国の国情を考慮しながら柔軟な措置の検討が行われています。また森林消失に伴う排出量算定については、 IPCC good practice guidanceのLULUCFに適用される方法とIPCC 2006 ガイドラインを用いること(但しIPCCのガイドラインの高階位の方法を取るには、ベースとなるデータの正確性が必要で、それらの不備な途上国への対応策が必要)になっています。
3-5 制度設計への各ステークホルダーの参加と利益分配
森林消失への対応策を進めていくにあたっては、 信頼性のある森林蓄積の推定や排出量の算定が出来る技術等を開発途上国が身につけるためのキャパシティー・ビルディングとそのための制度強化が必要です。こうした制度設計には、個人・制度・体制レベルでのキャパシティービルディングや南北間・南南間の技術移転・協力、ガバナンスの強化と法の施行、適切な経済発展、実証活動の資金確保という点を盛り込むことが必要であるというコンセンサスが得られています。しかし、先住民族や地域住民が制度設計に参加する必要性を各国は基本的には認識してはいるものの、あくまでも「参加」の認識であり、彼らの森林利用の権利の保障や森林管理における役割の必要性についての共通認識は得られていません。
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3-6 REDDの資金拠出方法
現在、市場ベース、非市場ベース、それら二つのハイブリッド方式の更なる検証・議論が行われています。また、その議論はREDDに限らず緩和活動全体に必要な資金拠出の一部からREDDにも資金を充てる考えと、REDD独自の資金を拠出する考えがあります。
REDDに限らない緩和活動の資金拠出提案(スクール・コペンハーゲン資金メカニズムから)
・メキシコ提案:緩和・適応・森林減少防止対象。年間10Billion USD(1兆円)からスタート
・ノルウェー提案:適応の他、緩和・技術移転にも。15‐25Billion USD(1.5兆-2.5兆円)
・スイス提案:適応の他、緩和も含む総合的な基金。年間18.4Billion USD(1.84兆円)
REDDに焦点を当てた資金拠出提案では、
・ツバルのInternational Forest Retention Fund:国際航空船舶輸送燃料税により年間24Billion USD(2.4兆円)
・EU試算:2020年にはEU域内排出量取引制度のオークションで得られる収入の5%=1.5~2.5Billion EURO(1800億~3000億円)を途上国の森林対策に充てる
・憂慮する科学者同盟(UCS)の試算:年間many 10s of Billions USD(数兆円超)(市場メカニズム)、年間10s of Billions USD(数兆円)ハイブリッド)、年間100s of millions(数百億円)(基金)
・世界銀行FCPF:途上国のREDDのための能力構築や、試験的プロジェクトとしてREDD事業に資金供与を行い、削減分に対して途上国政府にクレジットが支払われるプログラム。合計で1億6500万米ドル(約200億円)。日本政府はこれに3年間で最大1000万ドル(約11億円)を拠出
3-7 各国のREDDに関する具体的な提案
【熱帯雨林諸国連合(Coalition for Rainforest Nations : CfRN) 提案】
国家単位で炭素のグロス(Gross)排出量を計測し、ベースラインは過去のデータをもとに最低でも5年間の期間で策定します。REDD事業により達成された排出削減量はクレジット化し炭素市場で取引され、先進国が自国の削減目標を達成するために同クレジットを用います。2012年までのREDDのパイロットプロジェクトも次期枠組みにて評価を行うこととしています。
この提案では、REDDに参加する途上国の進捗レベルを3つカテゴリーにわけ、それぞれに合った資金提供アプローチ(カテゴリー1:キャパシティービルディング用に基金ベースで提供→カテゴリー2:地域レベルと国家レベルの実証活動の拡大のために基金や排出量取引からの資金を活用→カテゴリー3:国家レベルでの参加で世界の炭素市場でREDDクレジットを取引)を主張しています。
また提案にはREDDに"成長キャップ"という概念を導入し、途上国の経済発展をある程度可能にするための森林減少・劣化を許容する余地を残しています。
【ツバル提案】
地域コミュニティに森林の維持と保全のインセンティブを与えるために3種類の基金を用いた提案をしています。一つ目がコミュニティ森林維持トラスト口座(Community Forest Retention Trust Account : CFRT Account)を設けて地域コミュニティのREDD事業資金を支援するもの、2つ目が森林維持認証(Forest Retention Certificates)と呼ばれるCFRT Accountのもとに行った事業により削減された炭素量が国により認証されCOPの下での委員会がそれを検証するもの、3つ目が国際森林維持基金(International Forest Retention Fund)で、上述の資金を国際航空・船舶輸送燃料税から捻出しようという提案です。
ツバル提案では、世界の商品需要の圧力が森林から消えない限りリーケージが発生してしまうという考えから森林炭素の取引を支持していません。また輸入される森林関連製品に占める持続可能な森林経営に由来するものの割合を高めるため、非持続可能な森林経営から生産された製品を輸入する場合、その製品に炭素欠損税(Carbon Deficit Levies : CDLs)を課税するというCERとは逆のインセンティブを与える提案も含みます。
【ブラジル提案】
REDDは気候変動枠組み条約のもとで取り扱うべきですが、京都議定書の外で扱い、REDDメカニズムが先進国の削減目標達成のために用いられることがないようにするべきであるというスタンスをとっています。これは条約の目的を達成するにはREDDにおける排出削減は先進国のもともとの削減目標に追加的であるべきという考え方からです。
森林減少防止の実証活動に成功した国に追加的で新たに創設された基金から資金が提供されるべきであり、実証活動に入れる段階の国と、キャパシティービルディングが必要な国の二種類に分け、後者には国際機関や先進国からの任意の資金援助を想定しています。ベースラインは歴史的傾向に基づき設定し、計測範囲は国単位で行うことを提案しています。
【中央アフリカ森林協議会( The Commission of Central African Forests : COMIFAC) 提案】
コンゴ盆地諸国は、その土地の60%が森林劣化の脅威を受けているため、森林劣化の防止活動にも補償対象に含めるべきだと主張し、とくに持続可能な森林管理(Sustainable Forest Management :SFM)の推進し、同管理地からの排出は算入されるべきでないとしています。そして森林管理の定義及びSFMの枠組みはREDD実施国が自ら決定するべきと主張しています。
資金源は任意の拠出による基金と炭素クレジットを合わせた方法で捻出し、そのクレジットは先進国のキャップ&トレード方式から発生するものを用いることにより環境十全性を保つとしています。歴史的に森林減少の少ない地域や森林保護地を保全するための追加的な活動に対して補償される安定化基金とキャパシティービルディングに用いられる始動基金の二つが提案されています。
またCfRN提案と同様に、COMIFACは歴史傾向に基づくベースラインに加え、発展調整係数(Development Adjustment Factor : DAF)を適用することにより一人当たりの低い排出量と経済発展のニーズに沿った森林開発が行えるような仕組みを提案しています。
【インド提案】
インドは、REDDだけでなく森林の維持と植林を通じた炭素蓄積の増加を目的とした政策にも補償対象を広げるべきと主張しています。計測は国家単位で行い、資金源については当初事業専用の基金を設立する基金方式を支持していましたが、最近になって炭素の変化が起きる事業(減少・劣化や植林)については市場メカニズムを利用するという主張に変わってきていいます。また炭素の変化が起きない森林の維持を目的とする事業には国際的な基金を設立するべきとしています。また、インドは森林減少・劣化対策と植林事業を同等に扱うことを求めています 。対象範囲は国家単位で行うとしています。
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【南米ネステットアプローチ提案】
南米グループ は熱帯農業研究教育センター(Centro Agronomico Tropical de Investigacion y Ensenanza : CATIE)により提案されたネステッドアプローチ(Nested Approach)を支持しています。できるだけ多くの参加がないとREDDの成果も大きくならないとの視点から、最初は対象事業レベルを国単位に限らず計測精度の高い地域プロジェクトのみの参加も認め、段階的に国単位に発展させていこうとする柔軟性をもったアプローチを提案しているます。この場合、リーケージの問題が発生しやすいがその要因をつきとめ、プロジェクトごとの排出削減予測からそのリーケージ分を割り引くことで対処可能としています。こうして発生するクレジットは地域クレジットと国家クレジットの2種類とし、民間からの直接投資を呼び込み易くする目的があります。
ベースラインは歴史的傾向に基づくが、今まで森林減少率の低かった国にはその早期行動に対しリザーブクレジットが発行され、それで得られ� �歳入をCOMIFAC提案にあるような安定化基金の原資とするとしています。
【EUのポジション】
REDDの実行においては既存の森林減少対策を更に強化していく必要性を主張しています。更にEUは2012年までに締約国は国情に合わせて森林減少の要因に対処するための実証活動を行うべきであるとし、2012年以降は森林減少・劣化に焦点を当て、保全、SFM、植林活動については補完的であるべきというスタンスをとっています。ベースラインや対象範囲は国単位とし、野心的な目標を設定するも国情に合わせて適宜改訂していく必要があるとしています。
【ノルウェーのポジション】
ノルウェーのポジションで注目すべき点は、ブラジルと同様にREDDは付属書Ⅰ国の削減目標に上乗せしたかたちで適用されるべきとしている点であす。また市場メカニズムを用いて先進国全体で25-40%よりも多く削減するべきと主張しています。
資金源としては基金を使う場合には、追加的な資金拠出が必要でありODAには頼るべきでないとし、AAU (Assigned Amount Unit:京都議定書付属書Bにて割り当てられた排出量)のオークションを通じて生まれた資金をREDDに充てることも提案しています。
ベースラインならびに対象範囲については、過去の傾向に基づき国単位で行うことを提案していますが、国情に合わせて柔軟に設定することにも理解を示しています。
進行中のプロジェクト
現在、全世界で100 件以上の森林炭素関連の事業が存在しているといわれています。事業は主に先進国政府と途上国政府の二国間事業、政府(地方政府を含む)と民間企業やNGOが協力して行う事業、世界銀行や国連など国際機関が進める事業などプロジェクトの実施形態は様々です。
4-1 二国間の事業例
オーストラリア政府はREDDのリーダーシップを発揮するための政策として国際森林炭素イニシャティブ(International Forest Carbon Initiative : :IFCI)の一環として2008年6月にインドネシア政府と「インドネシア-オーストラリア森林炭素パートナーシップ(Indonesia-Australia Forest Carbon Partnership)」を立ち上げました。現在はこの下で、インドネシア・カリマンタン島の中央カリマンタン州での実証活動「カリマンタン森林気候パートナーシップ(the Kalimantan Forests and Climate Partnership : :KFCP)を開始しています。同活動では市場メカニズムを用いた資金供出アプローチをとっており、オーストラリア政府は既にKFCP設立に3000万ドルを拠出することを約束しています 。
4-2 地方政府と民間企業の例
インドネシア・アチェ州政府は75万haのウルマセン森林地域での森林減少を、85%削減することによって、今後30年間で1億トンのCO2排出削減を目指しています。米証券大手メリルリンチはこの事業に4年間にわたり900万米ドルを投資すると2008年3月に表明しました 。この目的達成のため、①森林を保護林へ変更することによる永久的森林地域の拡大、②地域における雇用の増加等の違法伐採対策、③森林再生、アグロフォレストリー(Agroforestry:農林複合経営 )、マングローブの再生等の事業の実施等が予定されています。実施課題としては、農業、木材伐採を行う13万人の地域住民との利害関係、同地域を分断する幹線道路敷設計画や鉱山開発事業等を許可する地方政府の政策調整の問題、事業から発生するクレジットの信頼性の確保等が挙げられています。
4-3 国連REDDプログラム
COP13の決定を下に締約国やドナーの要望を受けて、国連食糧農業機関(FAO)、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画(UNEP)の3機関が共同で立ち上げたプログラムです。森林減少・劣化からの温室効果ガス排出を大幅に削減するための資金フローを生み出すことが目的であり、当面の目標は入念に設計された支払い制度とキャパシティービルディング支援を通して、森林が提供する様々な生態系サービスを改善しながら、持続的で信頼のおける到達・計測可能な排出削減を確約することであるとしています。
4-4 世界銀行「森林炭素パートナーシップ基金(FCPF)」
COP13にて世界銀行は、市場メカニズムを補完するための基金「森林炭素パートナーシップ基金(Forest Carbon Partnership Facility:FCPF)」の設立を公式に発表しました。これは途上国国内のREDDのためのキャパシティービルディングや、試験的プロジェクトとしてのREDD事業に資金供与を行い、削減分に対して途上国政府にクレジットが支払われるプログラムです。日本政府はこれに3年間で最大1000万ドル(約11億円)を拠出します。日本のほか、ドイツ、英国、オランダ、豪州、フランス、北欧諸国などから合計で1億6500万米ドル(約200億円)の拠出が発表されており、南米、コンゴ盆地諸国、東アジア、太平洋諸国などの森林保有諸国を含む25カ国が参加中です。
準備メカニズム(Readiness Mechanism)として関連する途上国約20カ国に対し、過去の排出量に基づく将来の排出予測に関するシナリオ策定や、準備ファンド(Readiness Fund)を通じて、国内の森林炭素ストックおよび森林排出源に関する信頼できる予測作成のための技術支援プログラムのために資金供与します。最小額は1,000万USドルで目標額は1億USドルとされています。
続いて、その中から炭素ファイナンスメカニズム(Carbon Finance Mechanism)としてメカニズムに参加する数カ国(5カ国程度)が選定されます。選定された国は、(a)REDDに関するオーナーシップと適切なモニタリング能力を実証し、(b)排出削減に関する信頼できるシナリオとオプションを確立し、シナリオ以下に削減した排出に対し、Carbon Fundを通じて資金を供与されます。このメカニズムは、資金は計測・立証可能な排出削減を実現した国に対してのみ供与され、最小額は約2,000万USドルで目標額は2億USドルとされています。
REDDのこれからの課題と論点
ここでは、FoEJapanが考えるREDDのこれからの課題と注目すべき論点について紹介します。
5-1 REDD事業の参加は任意
これまでの議論からREDDへの参加には強制力を持たせるべきでないというコンセンサスが締約国間に広がっています。これはREDD事業の有無を経済的損得に合わせて選択できる余地を与え、森林減少・劣化を大幅に防止できなくなるリスクを孕んでいます。例えばREDD事業によるクレジット利益よりも森林伐採を行い、林産物や農産物の貿易による利益が高い場合は、森林を伐採するほうを選択します。また、REDDを選択した国から、REDDを選択していない国へ森林資源の需要圧力が移動し、リーケージが発生する可能性が高まります。
5-2 ベースライン策定・モニタリング実施の不確実性
途上国経済の発展の推移や気候変動に伴う降雨量の変化、森林火災等の自然影響により、森林と大気の間の炭素循環は大きく変化します。森林減少・劣化量とその炭素量の推測・計測には技術的な限界があります。REDDのクレジットには、一定の仮定に基づかざるを得ないベースライン設定の不確実性に加えて、計測時の不確実性が掛け合わせられることになります。
5-3 先進国の総量削減目標の達成手段の可能性
先進国全体で2020年までに1990年比25~40%の削減を求められている先進国にとって、REDDクレジットは自国の削減目標を達成するための有効なオフセットツールとなります。このことは先進国のエネルギー由来の温室効果ガスの排出削減努力を緩めてしまうというリスクにつながります。また、不確実性がぬぐえないベースラインの設定では、ベースラインを必要以上に高く、つまり過剰な森林減少が起こるように設定し、出来るだけ多くのクレジットを得ようとするインセンティブが生まれる可能性があります。これは化石燃料に依存しない社会システムへ向けた改革をさらに後退させるリスクを生み出すものと予想されています。
5-4 森林定義
現在の京都議定書の3条3項では、森林の定義は「面積0.05~1.0ha以上、樹冠率10~30%以上、樹高2~5m以上の土地と定義されています。伐採や災害により一時的にこの条件を満たさなくなった土地でも、森林に戻ることが期待されていれば森林とする」と定められています。もともと森林の炭素機能に焦点が当てられた森林定義には、天然林と人工林の区別がなく生物多様性の価値が軽視されています。また、実際の森林減少が「森林減少」のカテゴリーに入らず、排出が計上されていないという第一約束期間の問題を抱えています。REDDを次期枠組みに取り入れる際には、この既存の定義と運用ルールを継承せず、新たな定義を設定する必要があります。
仮に定義・運用ルールの改善が施されないとすると、
・天然林を択伐・皆伐した場合の排出が計上されない
・天然林、天然二次林を皆伐し、植林に転換しても、その排出が計上されない
・BAUの施業を継続しているにも関わらずREDDクレジットが発生する
という大きなリスクが生まれる可能性があります。
5-5 先住民族・地域住民の各権利の保障と役割の認識の不足
REDD事業を実施する際には、古くから森林に依存して生活してきた先住民族・地域住民の権利を保障することと森林管理における彼らの役割を尊重することの重要性を、各国がどこまで認識しREDDの制度設計に反映させるかが重要です。彼らの森林利用などの「権利」を保障することは、森林保全にも寄与する事例が報告されています。しかし、そうした権利の保障や森林管理手法を既存の森林政策に取り入れた事例は限られています。REDD事業を行う際に回避しなければならない点は以下の通りです。
・土地利用に関する法制度整備・施行が不十分な途上国において、今まで「開発」の名の下に開発事業対象地から締め出されてきた先住民族や地域住民の人権侵害問題が、今度は「森林保護」という新しい理由の下にREDD事業対象地で起こる
・「森林保護」の名の下に先住民族や地域住民を締め出すことにより、それまで先住民族や地域住民が対応できた森林火災発生の探知が遅れたり、違法伐採摘発が限られたりするなど森林変化の早期発見が難しくなる
・先住民族、地域住民の強制移転により、移転先の住民との対立・紛争が起こり新たな森林減少・劣化が生まれる(リーケージの発生)
・古くから森林に住んでいた先住民族や地域住民の森林資源利用の伝統的知識(薬草や有用な資源(動植物)の活用知識)が継承されず、生物多様性の将来的な利用可能性が断たれる
5-6 REDD制度実行の際の技術・方法論的課題義
先にあげたREDDの技術・方法論的課題を解決し透明性を確保した上で実行に移していく必要があります。この課題解決が不十分なままREDD事業を続けると気候変動緩和対策としてのREDDの有効性が疑問視され、REDDクレジットは信頼性を失い、排出量取引にも悪影響を及ぼしかねません。また生物多様性の損失や先住民族、地域住民の権利が脅かされる可能性が高まります。
5-7 REDDの資金メカニズムの意見の隔たり
締約国間での資金の拠出方法についての考え方の溝が埋まらないと、REDD制度の策定に関する議論にブレーキがかかり、森林減少・劣化を食い止める時期が遅れることが懸念されます。また、ガバナンスが不全で汚職・賄賂が蔓延しやすい途上国において、世銀のFCPFも含めたREDDに集まる資金が適切に利用されるよう、その透明性を十分に確保しなければなりません。
5-8 需要圧力と複数の森林減少要因への対処の不足
国際社会の森林減少防止の試みは20年以上も続けられていますが、現在でも一向に現実味を帯びていません。これは以下のような本質的な課題への取り組みが不十分である理由によると考えられます。
・木材製品、商品作物(紙パルプ植林やアブラヤシ、ゴム、大豆等)、鉱物資源など、森林を皆伐して他用途に土地利用を転換する事業の存在と、それを後押しする主に先進国側の莫大な需要圧力の存在
・需要を満たすための貿易・開発に伴う資金の流れに助長される途上国での政治腐敗とガバナンスの質の低さ
・法の施行が不十分・不適切なままでの土地・森林資源利用権の配分と、それにより発生する森林の違法伐採や乱開発
・違法伐採や乱開発で生産された資源の貿易や投資を適切に規制する国際的な制度の欠如
・先進国が温暖化対策として推進している輸送用バイオ燃料の導入政策による新たなバイオ燃料用作物需要の急増に後押しされた林地の他用途への転換
このように、現在のREDDの議論には、日本をはじめとする木材や資源の輸入国が、途上国に森林資源や鉱物資源を過度に依存せず、公正な木材調達を実現する方法を検討するという需要サイドからの視点が欠けています。さらに言えば、可能な限り生産者の顔が見える地産地消型へ社会構造を移行させない限り森林減少・劣化の解決は困難性を帯びつづけるものと考えられます。
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