銀河系を概観する
私たちの住んでいる地球は直径12,756km,質量6X1021トンという巨大な球体です。しかし,地球の外に広がる太陽系,銀河系(天の川銀河)に比べると砂粒に過ぎない大きさです。
太陽系には8個の惑星がありますが,太陽から最も外側の海王星までの距離は45億kmもあります。太陽から出た光が海王星に到達するまでには250分ほどかかります。距離の概念が地球上の単位を使用しているとあまりにも大きくなりますので,太陽系内ではAU(天文単位)を使用します。1AUは太陽から地球までの距離でおよそ1.5億kmです。
この天文単位を使用すると海王星までの距離は30AU,エッジワース・カイパーベルトまでが50AU,さらにその外側には散乱円盤は数百AUまで広がっています。その存在が仮定されているオールトの雲
は10,000Auもしくは100,000AU(1.58光年)にまで広がっていると考えられています。
現在,太陽系にもっとも近い恒星であるケンタウルス座アルファ星までの距離は4.4光年です。太陽系においてはAU(天文単位)が分かりやすかったのですが,銀河系(天の川銀河)になるとさらに大きな単位が必要になります。
そのため光が1年間に進む距離9.46 X 1012 km(9.46兆km)を1光年と定義しています。この単位は銀河系を含む宇宙の距離を表すにはとても分かりやすい単位です。現在確認されているもっとも遠い銀河からの光は131億年をかけて地球に到達します。現在,見えている光は131億年前のものということになると,とてもロマンチックな気分にさせてくれます。
ところが…,検索画面に「光年という単位は2011年7月から廃止される」というニュースが出ていました。え〜っ,と絶句しながら当該サイトを開くと「Astro Arts」というまじめなサイトでした。
開いたページの空白領域を下にスクロールしていくと「この記事はすべて捏造記事です。記事中の団体や技術は,実在のものとは一切関係ありません」という文字が表示されていました。2009年のエイプリル・フールでした。やれやれ,ということで一件落着です。宇宙や星空を対象としたサイトならではの品のよい,しかしドキッとさせられるジョークでした。
さて,話を元に戻し銀河系について説明してみましょう。私たちの太陽系のある銀河系は中心部の厚い円盤状の形状となっています。円盤の直径は10万光年,厚さは中心部で1.5万光年,周辺部は1000光年となっています。太陽系のカイバーベルトまでの直径が100AU(0.00158光年)ですから,銀河系の巨大さが分かるかと思いま� �。
銀河系は2000億の恒星と星間物質の集まりであり,太陽はその中でもっともありふれた星の一つです。銀河系の中心部には太陽の400万倍という巨大な質量をもったブラックホールがあり,銀河系全体はゆっくりと回転しています。太陽は銀河系中心から2万7000光年のところにあり,およそ2億年で1回転しています。銀河系が渦巻き状の形状となっているのはこの回転のためです。
銀河系(天の川銀河)は直径が10万光年という途方もない大きさをもっていますが,宇宙にはこのような銀河が1000億個はあると考えられています。宇宙の年齢(ビッグ・バンから現在までの経過時間)は137.2億年とされています。
そうすると,宇宙の大きさは137.2億光年より小さいということになりそうですがそうはならないようです。� �れは,光速以上の速度で宇宙空間が膨張しているためです。地球から見て遠くにある天体は(そこまでの空間全体が膨張しているため)より速く地球から遠ざかっているということになります。
現在の地球から観測できる範囲は約137億年前の「宇宙の晴れ上がり」の時点で地球から4200万光年離れた空間が限界値(事象の地平面)となっています。ここが現在の地球から観測できる宇宙の限界ということになります。この空間から発せられた光は(空間が膨張しているため)137億年かけてようやく地球に到達できたということになります。
宇宙の膨張速度は加速されており,現時点ではこの空間は465億光年の距離にあると推定されており,光速の3.5倍の速度で地球から遠ざかっています。銀河系の外に出ると「光年」と� �う単位はある空間までの距離ではなく,その空間から発せられた光が地球に到達するまでの時間を表すことになります。
私たちの銀河系にもっとも近いアンドロメダ銀河までの距離は230万光年です。この程度の距離でしたら空間の膨張速度は光速に対して十分小さいので光年=距離と考えることができます。それでも,現在,地球から観測できるアンドロメダは230万年前の姿であり,現在は異なったものになっているかもしれません。
このように,遠くの天体を観測するということは宇宙の過去の姿を見ることになります。現在,観測できるもっとも遠い天体からの光は131億年前のものです。ということは,137.2億年前に誕生した宇宙の6億年後の姿ということになります。宇宙が誕生して物質が生まれ,そこからどのよ うにして現在のような銀河が形成されたのかを知る重要な情報をそこから得ることができます。
宇宙の始まりと未来
宇宙がどのような姿(静的・動的)をしているかについては1917年にアインシュタインが宇宙方程式を発表しています。彼は重力により宇宙がつぶれないようにするため「宇宙項」を方程式の中に組み込みました。
宇宙項は反重力的な性質をもっており,その力が重力と拮抗することにより静的な宇宙を考えたわけです。しかし,すぐに静的な宇宙は不安定であることが分かりました。アインシュタイン自身も「宇宙項は生涯最大の失敗」と述べています。
実際の宇宙が膨張していることは観測の結果から判明しました。1929年にハッブルは遠くの銀河までの距離を求める方法を見つけ出し,いくつかの銀河までの距離と赤方転移を調べることにより,すべての銀河は地球から遠ざかっており,その後退速度は銀河までの距離に比例 することを発見しました。
この観測事実から宇宙が膨張していることが分かりました。宇宙が膨張していることが判明すると,過去の宇宙は現在よりも小さいものであったことが理解できます。宇宙の過去をさかのぼっていくと,宇宙は一点から始まり,急激な爆発的膨張により広がっていったと考えられます。この理論が「ビッグ・バン」と呼ばれ,宇宙の始まりの定説となっています。
このように宇宙の始まりは理論化されましたが,宇宙の未来はどうなるのかが次の課題となります。選択肢は二つあります。宇宙は永遠に膨張するのか,どこかの時点で収縮に向かうのかということです。宇宙の膨張速度が加速しているのか,減速しているのかがその決め手になります。
20世紀の最後になって遠くの天体の精密な観測� �果から宇宙の膨張速度は加速していることが明らかになりました。宇宙空間には未知のエネルギーがあり,それが空間を膨張させているのです。アインシュタインの宇宙項が新しい意味をもって再登場したわけです。
この未知のエネルギーは「dark energy」と呼ばれています。dark は暗いという意味ではなく正体が分かっていないという意味で使用されています。現在の宇宙論では宇宙は永遠に膨張するという考え方が主流となっており,未知のエネルギーの発見と膨張の加速が永遠に続くのかというところに焦点が移っています。
水素,ヘリウム以外の元素は恒星で作られました
ビッグバンで始まった原初の宇宙で生成された物質は水素(80%)とヘリウム(20%)だけでした。この存在比は「宇宙論」から導き出されたものです。そのような原初物質(ガス)が進化していく様子を日本の科学者グループが並列型のスーパー・コンピューターでシュミレーションしました。
シュミレーションは10万光年の領域で分子数で80%の水素と20%のヘリウムからなる宇宙生成初期の物質のふるまいを,太陽の半径(700,000km)程度の分解能で計算させました。分解能は宇宙空間におけるガスの重力収縮の最小単位であるジーンズ質量以下としています。
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